大判例

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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)304号 判決

原告

木子修作

ほか一名

被告

株式会社福居商会

ほか一名

主文

1  被告らは原告木子修作に対し、各自金二四万一、六〇〇円および内金二〇万六、六〇〇円に対する昭和四四年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告木子修作と被告らとの間に生じた費用はこれを五分し、その二を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告木子芳江と被告らとの間に生じた費用はこれを同原告の負担とする。

4  この判決は第1項につき、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告ら

1  被告らは各自原告木子修作に対し、金四四万二、一三八円および内金三七万二、一三八円に対する昭和四四年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告木子芳江に対し金一万四、九五〇円およびこれに対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決ならびに敗訴の場合に仮執行免脱の宣言。

第二、原告らの請求原因

一、(事故の発生)

原告木子修作(以下原告修作という。)はつぎの交通事故により傷害を受けた。

1  日時 昭和四三年五月七日午後四時三〇分

2  場所 京都市南区吉祥院三ノ宮西町先葛野大路通上

3  加害車 小型三輪貨物自動車

右運転者 被告 清水重治

4  被害車 普通乗用自動車

右運転者 原告 木子修作

5  態様 先行車が停止したため、被害車もこれにしたがつて停止したところ、追従してきた加害車が追突した。

6  被害者 原告木子修作は、本件事故のため第四頸椎後方脱臼の傷害を受け、この治療のため昭和四三年五月七日から同月三一日まで入院、六月一日から同月三〇日まで通院せざるをえなかつた。

二、(責任原因)

被告株式会社福居商会(以下被告会社という。)は第一次的に自賠法三条、第二次的に民法七一五条により、また被告清水重治(以下被告清水という。)は民法七〇九条により賠償責任がある。すなわち、

1  被告会社は鋼材販売を業とする会社であり、加害車を所有して自己のための運行の用に供し、また被告清水を使用して事故当時右業務の執行に従事させていた。

2  被告清水は、前方を注視して前車との車間距離を十分とり運転すべきであるのにこれを怠り、漫然と運転したため、停車中の被害車の左後部に加害車の左前部を追突させた。

三、(損害)

(一)  原告修作の損害

1 休業損害 金六万七、一三八円

この事故による受傷治療のため、昭和四三年五月八日から六月三〇日まで休業を余儀なくされた。なお、当時原告は整備工として一月金三万八、〇〇〇円の収入を得ていた。

2 入院雑費 金五、〇〇〇円

二五日間入院し、一日金二〇〇円平均の入院に伴う諸雑費を支出した。

3 慰藉料 金三〇万円

原告の前記傷害による精神的損害を慰藉する額は、諸般の事情に鑑み、金三〇万円はくだらない。

4 弁護士費用 金七万円

被告らが右損害金を任意に支払わないので、弁護士たる本件訴訟代理人にその取立を委任し、金三万円の着手金を支払つたほか、第一審判決言渡の日に金四万円の報酬を支払うことを約した。

(二)  原告芳江の損害

本件事故により夫たる原告修作が入院中、その附添のため、昭和四三年五月八日から同月二一日まで当時勤務していた美容室を欠勤せざるをえず、その間得べかりし給与金一万四、九五〇円の損害を受けた。

四、結論

よつて、被告らは各自原告修作に対し金四四万二、一三八円および弁護士費用をのぞく内金三七万二、一三八円につき訴状送達の翌日である昭和四四年三月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告芳江に対し金一万四、九五〇円および右同日から同率の遅延損害金をそれぞれ支払うべきものである。

第三、被告らの答弁と主張

一、請求原因第一項1ないし6の事実は認める。同第二項の事実中被告会社が鋼材販売を業とする会社であること、加害車の所有名義が被告会社にあることは認めるが、その余は否認する。同第三項の事実は争う。

二、加害車は被告清水が被告会社から昭和四〇年四月に譲渡を受けたものであるが、被告清水において右一台だけでは貨物運送の許可を受けられないところから、その所有名義を変更することなく、それからは被告清水が自己のものとして運行の用に供していたものである。本件事故当時も、被告清水が被告会社から鋼材運搬を月極めで請負い、運搬していたものである。

三、被告会社は原告修作に対し、本件事故の損害金として、治療費、コルセツト代、車両修理費用のほか、その余の雑損分として金六万五、〇〇〇円を支払つた。

第四、原告らの答弁

被告ら主張二の事実は否認する。同三の事実は認める。

第五、証拠〔略〕

理由

一、(事故の発生)

本件事故の発生に関する請求原因第一項1ないし6の事実は、当事者間に争いがない。

二  (責任原因)

(一)  被告清水の責任

1  〔証拠略〕によると、被告清水は加害車を運転して時速約四〇キロメートルで本件事故現場にさしかかつたが、同方向に先行する被害車を約七メートルの車間距離を置いたのみで追従したため、同車が一時停止したのを発見して直ちに急ブレーキを踏むとともに左にハンドルを切りこれを避けようとしたが及ばず、同車の左後部に自車右前部を追突させたことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

2  右事実によれば、被告清水は同方向に先行する被害車を追従するにあたり、その動静を注視し、これに応じた措置をとりうるに十分な車間距離を保つて進行すべきであるのに、これを怠つて進行した過失により本件事故を惹起したものと解され、民法七〇九条により右事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告会社の責任

本件加害車が被告会社所有名義であることは当事者間に争いがない。ところが、被告会社は自賠法三条の責任を争うので検討する。

1  被告清水本人尋問の結果によると、被告清水は昭和四〇年四月ごろ鋼材販売を業とする被告会社に自動車運転手として雇われ、その頃同社からその所有にかかる加害車を月賦支払いで譲受けたが、本件事故当時にはその代金を完済していたこと、しかし、右車両の登録届出、保検加入などはいずれも被告会社名義でなし、さらにその車体には被告会社名を表示していたこと、被告清水は右車両をもつぱら被告会社の運送の用に使用し、同社から毎月定期にその報酬を得ていたこと、被告清水は右運送にあたつて被告会社名の入つた作業衣を着用してこれにあたり、被告会社従業員がその積み降ろしなどの作業にあたつていたこと。本件事故は右業務を遂行している際にひきおこされたこと。以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、被告会社に加害車の運行支配ないし運行利益が帰属していたものと解され、同社は自賠法三条の運行供用者として右事故により生じた損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

(一)  原告修作の損害

1  休業損害

〔証拠略〕によると、原告は本件事故当時有限会社不二モータースに整備工として勤務し、平均金三万七、〇〇〇円の月収を得ていたが、本件事故により、受傷入院、治療のため昭和四三年五月八日から六月三〇日まで欠勤して右月収をあげえなかつたことが認められ、被告清水本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用できず、外に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうすると、本件事故による原告の休業損害は金六万六、六〇〇円となる。

2  入院雑費

原告が本件事故の受傷治療のため二五日間入院したことは前記のとおりであるが、〔証拠略〕によると、右入院中日用品の購入など諸雑費を一日金二〇〇円以上支出したことが認められる。そうすると、その損害は金五、〇〇〇円となる。

3  慰藉料

原告が本件事故により前記の傷害を受け、入院を余儀なくされたこと。入院日数、治療日数、仕事への影響その他諸般の事情を勘案すると、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料としては、金二〇万円をもつて相当というべきである。

4  損害の填補

被告会社が原告の本訴請求にかかる損害について、金六万五、〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。したがつて、原告の前記損害総額から右の填補分を差し引くと、残額は金二〇万六、六〇〇円となる。

5  弁護士費用

被告らが右賠償額について任意の支払いに応じないので、原告が弁護士たる本件原告訴訟代理人に訴訟追行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、原告修作本人尋問の結果によると、同人は同弁護士に着手金として金三万円を支払い、成功報酬として金四万円を支払うことを約したことが認められるが、本訴訟の難易度、右認容額、本件訴訟の経緯などを考えると、本件事故と相当因果関係にたつ弁護士費用は金三万五、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(二)  原告芳江の損害

まず、原告修作の入院中、付添看護の必要性の有無について考えるのに、〔証拠略〕によると、入院先は一応いわゆる完全看護の態勢をとつており、医師からとくに付添看護を求められなかつたが、原告芳江は同修作の栄養を補給するため、勤務先を昭和四三年五月八日から同月二一日まで欠勤して付添をしたこと、原告修作は入院当初から自分で便所に行くことができたこと。以上の事実が認められ、この事実と前記認定にかかる原告修作の受傷の部位、程度、入院期間などを考えあわせると、原告修作の病状がとくに付添看護を必要であつたものと考えることはできない。外にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると、右のように被告芳江に付添のための欠勤損があつても、その逸失利益をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

四、(結論)

1  以上のとおり、被告らは各自原告修作に対し本件事故による損害賠償として金二四万一、六〇〇円および弁護士費用を除く金二〇万六、六〇〇円に対する本訴状送達の翌日である昭和四四年三月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。原告芳江の請求は理由がない。

2  よつて、原告らの本訴請求は、右の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱の宣言は相当でないから、これを付さない。

(裁判官 伊藤博)

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